あっせんの申立を行うために、必要な準備は以下のとおりです。
1)事実の経過を整理
まず、これまで銀行との間であった事実の経過を整理してまとめる必要があります。
古い話になると忘れてしまって思い出せないこともあるかもしれませんが、資料を見る等してできる限り記憶の喚起に努めます。
整理のポイントとしては、
①相手方銀行とは何時頃から何をきっかけに取引が始まったか
②メインバンクか
③融資を受けたことがあるか、あるとすれば何時頃で内容は
④為替デリバティブ取引は何時頃、どのような経緯で始まったのか
⑤その際には誰から、どのような話があったか
⑥説明の際には資料はあったのか、あったとすればどのような資料か
⑦契約締結後の経緯(円高になってからのやりとり、解約や解約損害金を巡ってのやりとり等) です。
2)証拠資料の収集
次に、あっせん申し立ての際に提出すべき証拠資料を集める必要があります。
銀行と取り交わした書類の中には、原本を1通しか作成しておらず、写しも貰っていない書類も少なくありません。そのような場合は銀行から取り寄せる必要があります。
また中小企業側が為替リスクを負ってないこと、あるいは負っていても実需を超える金額のデリバティブ契約を結ばされていることを立証するには、会社の商流(どこから何を幾らで仕入れているか、仕入価格は円建てか外貨建てか、外貨建てであれば通貨は何か、年間の金額は幾らかなど)が分かる資料を集める必要があります。
3)銀行との事前交渉
第3に、これは必須ではありませんが、銀行と事前交渉することがあります。
法律的には、交渉で為替デリバティブ取引の支払金額を減免することはできないことになっているのですが(これを「損失補てんの禁止」といいます)、交渉によって事前に有益な情報が得られることがあります。
例えば、担当者が為替デリバティブ取引の稟議決済を取る時に事実と異なることを記載して決済を取っていることがありますが、そのようなことは事前交渉で伺い知ることができます。
また、あっせん申し立ての前にとりあえず出血を止めるために支払いを停止することもありますが、その際に通知書を送るより、実際に銀行に出向いて説明する場合もあります。特にメインバンクとして借入や銀行預金もある場合、期限の利益の喪失や銀行口座の凍結をされると会社自体が潰れてしまうので、そのようなことがないように協力をお願いすることがあります。
さらに、銀行と事前交渉を行うと、銀行がその事案についてどう見ているのか、あっせん申し立てを行った場合に譲歩する用意があるのかどうか、また当方が減額の材料と考えていることが銀行に対して有効なのかどうかが分かる場合があります。
また、あっせん申し立て後に銀行から出てくる反論や証拠を予想できることもあります。
ADRの成否は準備にかかっていると言っても、決して過言ではありませんので、専門の弁護士に相談して、慎重に進めて下さい。