グローバル化が進行することで,国境を越えたクロスボーダー取引で金融犯罪が起きることが珍しくなくなってきました。証券取引等監視委員会も国際取引等調査室を設置し,ここ数年,クロスボーダー型の金融犯罪の摘発に力を入れています。
例えば,非居住者である香港在住の日本人が,外国の証券会社を通じて,日本の株式を売買することで,インサイダー取引や相場操縦取引を行った場合,そもそも日本の金融商品取引法が適用されるのか,日本の証券取引等監視委員会の調査権限が及ぶのかが問題となります。
この点,日本の金融商品取引法の適用範囲を定める考え方には,①規制対象行為の一部が国内で行われれば適用するという「属地主義」,②日本の金融商品取引法が保護しようとする法益の侵害の可能性がある場合には適用するという「効果主義」,③属地主義を基本としつつも金融商品取引法の目的が十分達成できない場合に効果主義も加味して修正する「修正効果主義」があるとされ,実務では③の「修正効果主義」がとられていると解されています(「金融商品取引法の国際的適用範囲」松尾直彦)。
そして,前述の例で,日本における証券市場の健全性・公正性を図るという目的に照らすと,もし外国で行われた行為であるという理由で日本の金融商品取引法が適用されないとなると法の潜脱を認めることにもなりかねないので,適用があると考えられます。したがって日本の証券取引等監視委員会の調査権限も及び,関係者への呼び出しや資料の提出を求めることができ,これを拒否すると強制調査権限を発動することができると考えます。