インサイダー取引とは、有価証券の発行会社や内部のものが、職務上の地位を利用して、自分や第三者の利益を図ることを指します。
日本ではかつて、インサイダー取引の規制が十分に行われていませんでしたが、1988年の証券取引法の改正により、インサイダー取引を規制する規制がおかれました。
最近は、証券取引等監視委員会もインサイダー取引の摘発に力を入れており、インターネット掲示板や外部からの通報で容易に摘発可能となっています(野村證券における中国人社員によるインサイダー取引事件等)。
金額が小さいからとか、取引の規模が少額だからといっても、インサイダー取引の要件を満たせば、告発対象となります。
また近時、インターネット取引が株式売買の主流になっていますが、監視委員会等は不自然な株式売買を常に入念にチェックしており、「インターネット取引だからみつからないだろう。」といった甘い考えは通りません。
インサイダー取引を捜査して摘発するのは、証券取引等監視委員会が行っています。証券取引等監視委員会がインサイダー取引と疑われる取引を発見した場合の対応及びその後の流れは大きく分けて2つあります。課徴金課が調査して課徴金を課す場合と、特別調査課が調査して検察庁に刑事告発し、検察庁が起訴する場合です。悪質な場合(金額が大きい場合や犯情が悪いと考えられる場合)は、特別調査課が調査します。
インサイダー取引の要件は、①誰が(会社関係者など)、②どんな場合に(決定事実や発生事実などの重要事実を知って)、③いつ(公表前に)、④何をしたら(株の売買)、で分けることができます。
インサイダー取引は、政策的に広く摘発を可能にするために条文の文言を広く解釈しているため(例えば、取締役会での決定前でも「決定」があったとみなされる場合があるなど)、一般の人が思っているよりも規制の対象が広いのが特徴です。また、会社関係者から、うっかり聞いてしまった発言でも重要事実を知ったことになりますので、注意が必要です。
インサイダー取引が疑われる場合、突然、何らの前ぶれもなく、証券取引等監視委員会から呼び出しがかかることになります。突然のことで非常に動揺するのが一般です。また、呼び出しは連日にわたることが多く、自宅や会社に強制捜査が入ることもあります。
まず、不幸にしてそのような事態に陥った場合、自分の被疑事実を確認して下さい。その上で、専門の弁護士にご相談下さい。弁護士に相談した場合、次のような利点があります。
- 一般の方々は、インサイダー取引といってもどのような要件が整うと犯罪が成立するのかについて正確な知識を持ち合わせていないと思いますが、専門の弁護士に相談すればその知識が得られます。
- また、証券取引等監視委員会から呼び出しがかかるとなると、疑われていることは確実ですから、場合によっては自分の嫌疑をはらし、あるいは家族や会社に人に知られることなく、手続を進め、さらにはマスコミにリークされたりして社会的制裁を受けないように配慮する必要があります。そのような対応は自分1人だけでは困難です。
- 取り調べは連日行われることもあります。自分の体調や仕事の都合も考慮し、過度な取り調べにならないよう弁護士に意見を述べてもらうこともあります。
- 最終的には取り調べ調書にサインし、犯則事件であれば検察庁とも合議して結論を決めます。いかなる調書にサインすべきか、担当官にどのような意見を述べれば良いかについて相談することができます。場合によっては、最終的な意見を書面で作成して提出することもあります。
インサイダー取引の判例
(1) 日本織物加工事件
M&A交渉の関わった弁護士が第三者割当増資による新株発行の重要事実を知って、公表前に株式売買を行った件で刑事責任を問われた事件
(東京地裁平成9年7月28日判決)
(2)野村證券中国人社員事件
野村證券中国人社員が職務上知り得たM&A情報に基づいて株式売買を行った事件で刑事責任を問われた
(東京地裁平成20年12月25日判決)