1 最近の商品先物取引被害の実態について

 

かつては商品先物業者が顧客に商品先物取引を勧誘して多額の損失を発生させることが多くみられました。しかしながら,最近は,商品先物業者であることを名乗ると顧客が話も聞いてくれなくなるので,「●●証券」「▲▲証券」といった証券会社名を名乗る業者が商品先物取引,為替証拠金取引(FX取引),日経225先物ミニ取引といった投機的な取引を勧誘して顧客に多額の損失を発生させ,一方で証券会社が高額の手数料を徴収するという実態に変わってきています。このような業者は,最初から組織ぐるみで高額の手数料収入を得ることを目的としています。そのため,顧客がひとたび口座開設に応じてしまうと連日電話勧誘を行ってわけのわかならい売買を繰り返し,顧客は取引をやめることもできず,短期間で数千万円もの多額の損失を発生させ,他方業者は数千万円の高額の手数料収入を得るといった事態が発生しています。

このような業者は,学校の卒業名簿やアポなしのローラー営業でカモになりそうな顧客を見つけだし,安心させる言葉で顧客に口座開設に応じさせ,その後は目まぐるしいほどの大量の売買を繰り返して高額の手数料収入を稼ぎ出しています。このような業者は健全な金融商品取引市場の担い手とは全く言えず,金融取引業者として登録されていること自体が間違っていますが,そのような業者が存在しているのが実態です。

 

2 被害回復の方法について

(1)取引内容の調査を行う

まず,相手方業者から法定帳簿である顧客勘定元帳(帳簿の呼び名は証券会社によって異なります)を入手することから調査を開始します。顧客は業者の言いなりでわけも分からず毎日のように売買を繰り返しているだけなので,自分が行った取引自体を正確に把握できていません。そのため,まず客観的にどのような取引が行われたのかを帳簿に基づいて調べる必要があります。

次に,入手した顧客勘定元帳を基に取引一覧表を作成する必要があります。

取引一覧表を作成すると,具体的な取引内容や,業者に支払った手数料の金額,手数料稼ぎの手口を把握することができます。

以下,業者の手数料稼ぎ目的と思われる典型的な手口を紹介します。

① 日計り取引などの保有期間が極めて短い取引が多い

商品先物取引は,新規建て(買い取引と売り取引があります)と決済がペアになって行われます。そして限月といって新規建て取引から決済まで12か月以内と制限がある取引もありますが,限月がない(=決済までの期間が無制限)取引もあります。いずれの取引形態であっても,新規建て取引から決済まではある程度余裕期間があるのですから,新規建て取引から決済までの期間が極めて短い取引が多いのは業者側の手数料稼ぎに利用されている可能性が高いです。特に日計り取引といって新規建て取引をした同日に決済している場合,新規建て取引と決済両方で手数料を取られているわけですから,手数料稼ぎで利用されている可能性が高いです。

② 途転,直し,不抜け,両建てといった特定売買が多い

「途転」とは,既存の建玉を決済するのと同日に反対ポジションの新規建て取引を行うことを言い,「直し」とは,既存の建玉を決済するのと同日に同じポジションの新規建て取引を行うことを言い,「不抜け」とは,取引上の損益では利益となっているものの業者に支払う手数料が利益よりも大きいために顧客の損失となっていることを言い,「両建て」とは,買いと売りという反対ポジションの建玉を同時に保有する状態を言います。これら取引を特定売買と言い,業者側が顧客の無知に乗じて手数料稼ぎ目的で行う典型的な手口であり,このような取引が多い場合,業者の手数料稼ぎ目的が推認されます。

 

(2)民事訴訟を提起する

前述した調査の結果から,短期売買や特定売買が非常に多く,顧客の損失金額に対して業者が得ている手数料収入の割合が非常に高いといった事実が客観的な数字から裏付けられる場合,業者が顧客を手数料稼ぎのカモにしている可能性が高いので,民事訴訟を提起します。

金融取引業者を相手とする場合,金融商品取引法によって,損失補填が禁止されていますので,交通事故のように示談交渉で損害金を支払ってもらうことが原則としてできません。また,前述のような取引を行う業者は最初から確信犯で取引を行っているので,あっせんや調停といった当事者の合意が解決のために必要な手続きでは時間稼ぎされるだけなので,最初から民事訴訟を提起すべきです。

また,この種の民事訴訟を提起するには,顧客側もこの種の民事訴訟に精通した弁護士を選任する必要があります。なぜなら,業者側は間違なくこの種の民事訴訟に精通した弁護士を選任して応戦してくるからです。さらに,業者側は,最初から民事訴訟になる可能性があることを念頭においていますから,取引の過程において,証拠固め目的で書類や会話録音等を作成しています。そのため,顧客側弁護士に,相手方業者からどのような証拠や主張が出てくるのかある程度予想できないと不利な状況に陥ってしまいます。

 

(3)民事訴訟の流れ

まず顧客が原告,業者を被告(場合によっては営業担当者や役員も被告とすることもあります)として訴状を作成して裁判所に提出するところから始めます。

業者側の違法事由として挙げる主な理由としては,ⅰ適合性原則違反,ⅱ 新規委託者保護義務違反,ⅲ 過当取引,ⅳ 説明義務違反などがあります。

業者側は,前述した取引過程で作成した書類や,会話録音テープ等を証拠として提出して,取引の内容やリスクを十分に説明したことや顧客が自分の判断で取引で行ったことを主張・立証してきます。しかしながら,前述の書類等は,業者側が自己防衛の目的で作成したにすぎず,その内容が真実を反映しているとは言い難いので,顧客側は作成過程をきちんと主張・立証して,業者側が提出する証拠について信用性がないことを主張する必要があります。

 

(4)最終的な解決

この種の訴訟では,和解で終了するケースが非常に多いです。業者の中には資金的に脆弱な業者もあり,1~2年かけて判決に至っても,業者側が財政的に破綻してしまうと回収ができなくなるおそれがあります。そのため,顧客側もある程度の回収が見込めるのであれば和解による解決も検討すべきです。

 

3 当事務所の取り扱い実績

① 平成28年9月15日東京地裁にて訴訟上の和解

商品先物取引で損害を被った顧客が第一商品を被告として訴訟を提起した事件で,第一商品が訴訟上の和解で4000万円を支払った事例。

*本件は和解の内容等について口外禁止条項が入っていないため公開しています。

② 平成29年12月21日東京地裁判決

商品先物取引で損害を被った顧客が第一商品を被告として訴訟を提起した事件で,裁判所は顧客が商品先物取引の適格性を欠くことを認め,口座開設時に虚偽申告させたことを認めて,損失金額の半額について賠償を命じた判決。

③ 平成30年5月17日東京高裁判決

②事件の高裁判決で②の判決を維持した。

④ その他訴訟上の和解事例は多数あります。

 

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